5年生の秋の時点で110㎞を投じる右腕と、101㎞を投じる左腕がいる。さらに驚かされるのは、細やかな野球の完成度と個のレベルの高さだ。5年生13人に4年生が8人。大型のチームではないが、粒ぞろい。大人の逐一の干渉や高圧的な言動がゼロでも、勝負強くて試合運びも巧みとくる。失敗もミスもあれども、結果に怯える選手はなく、リーダーがまた頼もしい。新人戦の最上位となる関東大会で銀メダルに輝いたラウンダース(山梨)は、2026年の学童球界をリードしていくことになるのかもしれない。
※学年未表記は5年生
(写真&文=大久保克哉)
―Team Inside Story―
バントだけじゃない。野球ロボの軍隊でもない精鋭集団
準優勝
ラウンダース
[山梨県]
【戦いの軌跡】
1回戦〇6対1玉村(群馬)※リポート➡こちら
準決勝〇6対4豊上(千葉)※リポート➡こちら
決 勝●4対5清水ヶ丘(神奈川)※リポート➡こちら
泰然自若の将
関東新人戦の決勝、ラウンダースは5回表に2得点で4対4に追いついた。そして裏の守りが始まったとき、試合の経過時間は84分あたり。既定の90分まで5分あるかないか、だった。
「何とか0点で返ってきてくれれば、タイブレーク(特別延長)で、という準備をしていたんですけど、自滅しちゃいましたね」(日原宏幸監督)
同点のまま特別延長に入って1点でも勝ち越せば、出色左腕の佐野大翔(=下写真)で逃げ切るプランもあったことだろう。同日の準決勝で62球を投げていた佐野は、最速を101㎞に更新。既定の70球まで残り8球でも、その球威と制球力をもってすれば、一死二、三塁のピンチも無失点で切り抜けられたかもしれない。

しかし、佐野は未登板のまま、ラウンダースは敗れた。5回裏、一死から与四球とバッテリーミスで1点を献上したところで、タイムアップとなった。
最高位のタイトルを目前にしての、唐突な幕引き。しかもミス絡みで決勝点を与えた結果となり、消化不良の想いは増幅したに違いない。それでも、お決まりの涙はなし。日原監督は表情ひとつ変えることなく、こう言った。
「まぁ、ここで勝って、良かった良かったとならずに冬を越せそうです」

敗れた後のエール交換まで、応援席を含むマナーもまた模範的だった(上)。写真下はチームの創設者でもある日原監督

1年の流れやヤマ場を心得ている。5年生のこの時期を、評価する基準もあればこその悠然だろう。日原監督は、幼児向けの野球教室をきっかけにチームを立ち上げた創設者。14年のチーム史には、2回の全国大会(全日本学童マクドナルド・トーナメント)出場が刻まれている。
人が人を育む
試合中もいちいち一喜一憂しない指揮官は、とことん忍耐強くもある。例えば、決勝の3回裏の守り。四球で貯めた走者を長打でかえされるなど2対4と一気に逆転されたが、ついに一度もベンチを出ることがなかった。
「ヤバいなという思いは当然ありましたけど、(監督が守りのタイムを取ることで)こっちの危機感を選手に感じさせるのも良くないので…」(日原監督)
ひとつのタイムを取るか否かでも、これほど考えているとは。またその結果が、「吉」と出なくても責任を選手に転嫁するような指揮官でないからこそ、頼れるリーダーも育つのだろう。

逆転された3回裏に、ベンチからのタイムはなかったが、二塁を守る奥山葵登主将からのタイムで内野陣がマウンドに集まるシーンがあった(=上写真)。連続四球で無死一、二塁となった直後だった。
「自分はもともと声は出るほうだけど、もっと出さなきゃいかんです。気合いでも引っ張りたいし、プレーでも引っ張っていきたい。もっとキャプテンらしくならないと」
試合後、すっかり掠れた声で話した背番号10は、本来は遊撃手だが、痛めた肘が万全でないことから二塁を守っていたという。フィールドでの声掛けは、同じ単語の連呼だけではない。状況や次の展開を読んで味方の立ち位置を指示したり、準備を促したり。また決勝でも、信頼度を引き上げる一打があった。

勝ち気でエネルギッシュ。奥山主将の存在が安心を招いているようだった

それは5回表だった。3対4と1点差に迫り、一死二塁から四番・降矢聖悟はバントヒットを狙うも、一塁アウトで二死三塁に。もう打つしかない場面で、五番の奥山主将が中前へ同点タイムリーを放ってみせた。
「もう2アウトだから、大きいのを狙わずに単打で何とかもう1点と、甘い球に絞ってました。ボクはもともとレフトオーバーを打つようなバッターではないので、センター返しを中心に左中間、右中間を抜くことを考えて打ってます」
この奥山主将とエース右腕の伊藤誉(=下写真㊨)は、2年前の全国大会でもレギュラーで1勝している。でも経験値だけで、ここまで自ら考えて動き、それを言葉にすることができるものだろうか。

関東新人戦で唯一、「110㎞」を投じた伊藤は、気取らずにこう総括している。
「自分的には楽しかったです。新チームになって県外とはやってなかったので、いろんなチームと関われて、喋ったり戦ったり。そういうのが全部楽しい大会でした」
雄弁から透けて見えるのは、豊かな人間性と、それを育む土壌である。
完成度と総合力の高さ
一死までに走者を三塁に進める。そして確実にゴロを転がして得点する。この戦術の浸透ぶりと精度は、1都7県の王者が集う関東大会でも群を抜いていた。

パンチ力も勝負強さもある四番・降矢でも、状況によってはセーフティバント(上)から一塁へ頭から飛び込む。右翼守備も安定していた(下)

チャンスメイクに用いる三塁線へのセーフティバントが、分厚い攻撃の肝となっていたことは既報のとおり。3試合で奪った14点のうち、11点までが一死三塁から生まれたものだった。またフィニッシュの内野ゴロがヒットとなり、複数得点につながるケースも。
小技や足技やゴロ打ちを駆使する、そういう細やかな攻撃を真っ向から否定する学童指導者も少なくない。でも見落としたくないのは、ラウンダースの野球はそれだけに終始していない点だ。

快速左腕の佐野は機動力もキラリ(上)。六番・一塁の雨宮城玖は、スケール感も漂う(下)

先述の主将のタイムリーのように、打って得点するスキルと勝負強さもある。上位打線は長打力も備え、準決勝では四番・降矢の右中間タイムリー三塁打が決勝打に。
決勝では八番・深沢匡も二死からタイムリーを1本。九番・小番瑞輝はバントヒットだけではなく、フルスイングや逆方向へのクリーンヒットもあった。

打つべき場面では、九番・小番瑞もバットがしっかりと振れていた

要するに、個々の打撃も一定以上のレベルにある。守備力も同じく、9人の平均値が高くて穴が見当たらない。110㎞右腕と101㎞左腕におんぶに抱っこではなく、打たせて取る左腕の深沢琉(=下写真)も波に乗せられる守備力を備えていた。

そうしたことも含めての、完成度と総合力の高さが際立っていた。現6年生が2人だけとあって、5年生たちの経験値がアドバンテージとなっていた側面もあろうが、実戦を積むだけでこの域に達するものでもない。
ラウンダースは水曜と木曜にナイター練習がある。それも含めて年間計画の下、個にも寄り添った育成がなされているのかもしれない。2年前に全国出場を決めた際の、驚異的な粘り腰も必然と思わるものだった(リポート➡こちら)。

深沢匡(上)と雨宮朝(下)の三遊間は、1点を守る野球にも不可欠だった

「ピッチャーは1週間で210球という新しいルールも始まる(2026年から)ので、より制球力を上げて、緩急も使って球数を少なくして打ち取っていかないといけない。バッター陣はこれまで、打てる球をしっかり打ち返そう、というテーマで来ましたけど、これからはいかにボール球を打たずに、ストライクをしっかりとスイングしていけるか、ですね」
秋の頂点には輝けなかったが、やりたいことだらけで冬が待ち遠しい。日原監督からは、悔しさよりも高揚感がうかがえた。キャプテンもまた切り替えが早かった。
「目標はこの関東大会優勝でずっと来たんですけど、今はもう全国優勝です。新チームの良いところ? みんな優しいというか、誰に対しても話したり接することができるところだと思います」(奥山主将)
山梨の全国予選は例年6月。勝敗はどうあれ、さらにブラッシュアップされた野球に出会えることだろう。
